コンプライアンスInSight2016年冬号

企業コンプライアンスが目指すべき贈賄防止体制

コンプライアンス強化と体制の充実が海外進出の成否を分ける

  2020年に向けた日本の成長戦略として「インフラ・システム輸出」が掲げられて以降、ASEAN諸国やインドなどの新興国における空港や港湾、発電所や鉄道などの大規模インフラ整備プロジェクトを受注しようと産官一体となったアプローチが続いている。また、メーカーや小売各社も、超高齢社会に移行する日本市場にとどまらず海外にも市場を広げようとの意欲が旺盛だ。そうしたこともあり、日本企業によるM&Aや海外拠点の確保などの動きは依然として活発に行われている。
 しかし一方で、想定外な問題に直面する企業も多い。その理由は様々にあるが、近年特に問題になっているのが「FCPA(US ForeignCorrupt Practices Act:米国海外腐敗行為防止法)」での摘発と莫大な制裁金が課せられる、というものだ。贈賄や汚職などの腐敗行為を取り締まるFCPAへの対策を怠ったまま海外市場で経済活動を行うことは、場合によっては巨額の損失だけではなく企業価値を著しく毀損する事態に繋がりかねない。にもかかわらず、日本企業はこれへの対策が非常に疎かだ。
 国内市場の拡大が見込まれない今、海外展開をしないという選択肢はないだろう。では、海外市場に打って出るにあたって日本企業が“本当になすべきこと”とは何か。先日開催されたトムソン・ロイター主催「贈賄防止対策セミナー~企業コンプライアンスが目指すべき贈賄防止体制~」の内容をもとに、企業コンプライアンスの観点からこの問いを考察していく。

セミナーの様子

知らないうちに域外適用法に抵触するリスク

  さて、先述のFCPAは「域外適用法」のひとつで、米ドルを利用するすべての多国間経済活動が適応範囲と言っても過言ではない米国の法律だ。1977年に施行され、1998年にはその範囲が大きく拡大された。OECD条約加盟国企業に対する制裁事例が非常に多く、2007年から2011年までの平均制裁金は、1社あたり$54,571,187(出典:”Preparing for the New Age ofGlobal Anti-Corruption Enforcement”,Deloitte Development LLC.)にも上る。そうしたこともあり、グローバル企業は一様に反腐敗対策に積極的な取り組みを続けている。
 たとえば、こんな事例がある。軍事機器メーカーのハリス・コーポレーションがM&Aで買収した中国企業に勤める職員が公務員に対して賄賂を支払っていた容疑で摘発されたのだ。この贈賄事件では、最終的にハリス・コーポレーション自体は不起訴処分となった。しかし、和解が成立するまでには、大量の資料の提出や関係者の出頭・取調べをはじめとした長期間に及ぶ捜査協力を余儀なくされ、徹底した事実調査が求められたという。家宅捜索や差押えを受けることによる業務上の支障のほか、さまざまな副次的な損害もあっただろう。企業として受けた損失は計り知れない。
 日本企業も例外ではなく、2011年以降の制裁事例は6例が報告されている。今、もっとも懸念されていることは、贈賄や汚職などの経済犯罪の嫌疑をかけられた際、日本企業が防衛策を取り切れていないことと、経営陣にその知識や危機意識がないことだ。

反贈賄のコンプライアンス強化が企業を救う

  先に触れたハ社の件で企業が不起訴処分となった理由は、当局への積極的な協力姿勢と企業内のコンプライアンス体制が徹底されている点が評価されたためだ。では、日本企業でもこれと同様の結果を導くことができるか? 残念ながらそれは難しそうだ。後に詳しく紹介するが、たとえば「贈賄及び関連汚職について、防止のためのe -ラーニングを実施したり、社員の行動や外部との接触について承認・記録する管理システムを導入する」といった具体的な対策を講じている企業はまだまだ少ない。
 他方、ハ社の例では実際に賄賂を支払っていた職員が起訴されたわけだが、このように個人に罰金が課せられるケースは珍しくない。また、企業の経営権を持つ取締役などの役員には相応の管理者責任が問われる恐れもある。海外の経営陣が高額な報酬を受けているのはこのためだが、日本企業ではまだそうした考えは馴染まないだろう。
 こうした懸念に対して、「企業や所属する社員を守るためにはコンプライアンス体制の構築や意識を徹底させることが不可欠だ。また、すべての体制が整ってから実行に移すようなやり方ではなく、リスクを評価し、もっとも重視する点を見つけてそこから着手するスピード感が大切だ」と、有限責任監査法人トーマツのエンタープライズリスクサービスディレクターである茂木 寿氏はコンプライアンス強化を実践することの重要性とその取り組み方を示す。

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