2017年のマクロ展望
Jan. 2017

2017年のマクロ展望

<特集記事>
トランプ米大統領の政策と日本に対する影響

 IMFが17年1月16日に改訂した最新の世界経済見通しによると、16年の世界の実質GDP成長率(推計)は15年の3.2%増からやや減速し3.1%増となったものの、17年は3.4%増、18年は3.6%増と世界景気が加速する。米国については、トランプ大統領のリフレ政策への期待が拡大したこともあり、16年は10月時点予測の2.2%増から2.3%増に0.1%、17年は同2.1%増から2.5%増に0.4%上方修正した。日本については、17年の予測を10月時点の0.6%増から0.8%増に0.2%上方修正し、18年は0.5%増と10月時点と変わらずのままだった。

IMFが米国の上方修正の理由をアメリカの財政刺激としていることからも明らかなように、17年の世界景気、日本の景気を展望するにあたり、一番の重要なファクターが米国のトランプ大統領の政策であることは疑いがないだろう。トランプ大統領は、10年間で一兆ドル(約114兆円)という巨額のインフラ投資や最大5.9兆ドル(約672兆円)の大幅減税などリフレ政策を進めていくと公言している。同時に、「アメリカ・ファースト」として、貿易不均衡の是正、規制緩和、米国の雇用増、米企業の海外利益の本国送還奨励などを進めていくと考えだ。

トランプ大統領は、米国の貿易赤字の不均衡として、中国、メキシコ、日本などを具体的に名指しして不満を示している。1月20日の就任式でもTPP離脱とNAFTA再交渉を明言した。トムソン・ロイターで提供しているIMFの15年のデータによると、米国の輸入相手国としては、トップの中国が年間約4820億ドル(約54.9兆円)、以下カナダ、メキシコ、日本と続いている。4位の日本からの輸入額は年間約1310億ドル(約14.9兆円)に達している。(チャート1)

◼︎チャート1 チャート1

日本にとっても、貿易収支(輸出額ー輸入額)の黒字額が最大となっているのは対米貿易だ。同じくIMFの2015年のデータによると、米国は日本の最大の輸出相手国で輸出額は年間約1260億ドル(約14.4兆円)。対米貿易収支は年間約580億ドル(約6.6兆円)の黒字となっている。(チャート2)

◼︎チャート2 チャート2

トランプ大統領の経済政策が実施され17年の米景気が拡大するなら、日本はそのメリットを最も享受する国の一つである。ただ、貿易収支の不均衡の是正をかかげるトランプ大統領に国境税などが課せられる可能性があり、今後の政策に注目が集まるだろう。

日米金利差は拡大し、ドル円トレンドが続くか?

米短期金利は長期トレンドで見ると、リーマンショック後の実質ゼロ金利からのテーパリングで15年第1四半期から上昇を始めた。長期金利は16年7月の1.3%台の史上最低利回りで底を打ち、大統領戦でトランプ候補が大半の予想に反して次期大統領に決まると急騰し、12月には一時2.6%までつけた。OECDの予想では、18年には長期金利は4%程度まで上昇するとしている。(チャート3)

◼︎チャート3 チャート3

米長期金利は、1980年代の前半に14%台の史上最高値まで高騰しピークをつけ、以降30年以上にわたって下げトレンドに入っていた。トランプ後の急激な市場の反転で、30年以上にわたる債券の時代が終わり債券から株へいよいよ「グレート・ローテーション」が来たという見方が一部のエコノミスト等の間でではじめている。

一方、日本は16年第1四半期にマイナス金利導入後、16年の第3四半期末でも長期債の利回りはゼロ近辺を維持している。OECDの予想からは、日米金利差は拡大傾向が続き、ドル円レートが強含む可能性が強いことを示唆している。ドル高は米国にとって輸入価格が低下し、日本にとっては輸出価格が反対に上昇することになる。米国の輸入価格の低下は交易条件が改善し、実質所得が増加するプラス効果があるが、一方で米企業のグローバルでの競争力は低下し企業収益の下振れリスクがでてくる。

ドル高は諸刃の剣であり、現在のドル高トレンドに対しトランプがどういうスタンスをとるかも、2017年の大きなテーマだと言えよう。

失業率は世界的に低下傾向

2018年までのOECDの完全失業率(労働力人口に対する比率)の予想では、日本も米国も欧州も17年から18年にかけて低下していく。(チャート4)世界景気にとってはポジティブな予想だ。米失業率の低下は、米の追加利上げのサポート要因となり、期待インフレ率は上昇し、株式等のリスク資産が上昇する可能性が高い。

米国が完全雇用に近づきながら、長期的な米国の潜在成長率を押し上げられるかもトランプ大統領の政策次第だろう。トランプ大統領はグローバリズムが進行する中で雇用機会を失ってきた労働者階級の不満をあおり、ポピュリズムの流れに訴えることで大統領になった。今まで公言してきたことへの市場の期待感は強い。金融市場は、トランプトレードによるリスクオンである程度は織り込んでしまった。ただ、公約が実施出来ない場合は、トランポノミクスへの期待感は一気に剥離し、世界景気、世界の金融市場を逆回転させる可能性もあり得るだろう。

◼︎チャート4 チャート4


<サブトピック>
日本の金融市場の脆弱度をFVI指数で比較する

 リーマンショック後、ファンドの大きなドローダウンを防ぐため、金融市場の脆弱性、ストレス度、システミックリスクを指数化して、ウォッチすることが長期運用の世界では一般的になってきた。

トムソン・ロイターでも、ファゾム・コンサルティング社の算出するFVI指数(Financial Vulnerability Indicator、金融脆弱性指数)の提供を開始した。FVI指数は、150以上の国について、今後12ヶ月の金融市場の脆弱性に関して、銀行、通貨、国債や金融機関の破綻といった4つの事象についてのデータを指数化したものだ。FVI指数は、世界を同じ基準で判断するため、それぞれの国の過去の危機との対比だけでなく、世界の国々と金融の状況が対比できる。

日本のFVI指数は直近では200となっている。リーマンショック後の2007年から10年頃はでアメリカやギリシャなど欧米の主要国のFVI指数は危険領域とされる300を超えていたが、日本のFVI指数は100前後で安定していた。日本の指数は、2013年以降にアベノミクスや日銀の異次元金融緩和を始めて以来上昇に転じている。 財政負担増からGDP対比の財政赤字が増えたことなどが主因だろう。

現在の指数は、ITバブルが崩壊した2000年から01年の頃のレベルまで達している。ただし、世界的な危険領域とされる300にはまだまだ乖離がある。いち早くリーマンショックから立ち直った米国の指数は現在100を下回っているが、中国、ギリシャ、ウクライナ、香港などは危険領域とされる300を上回っており、日本のレベルは世界の主要国と比較しても決して問題視されるレベルではないと言えるだろう。

◼︎チャート5 チャート5