先進国の長期金利が急上昇
Nov. 2016

トランプ後、先進国の長期金利が急上昇

<特集記事>
日欧の金融政策もテーパリングを意識する段階に

 リーマンショック後の世界景気の危機を救うために日米欧の中央銀行は大胆な量的質的金融緩和を行った。いち早く回復路線に復帰した米国は、2013年5月にテーパリング(量的緩和の縮小)を行い、15年12月には9年ぶりの利上げに踏み切り、実質ゼロ金利を解除した。

11月8日の米大統領選でトランプ氏が勝利、トランプ氏のリフレ政策で債券が大量発行されるとの思惑から市場の長期金利は急騰した。その後も、小売売上高、ミシガン大学消費者態度指数、耐久消費財受注など、米経済指標は予想を上回るデータが相次ぎ、12月14日の連邦公開市場委員会(FOMC)で連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを行うことはほぼコンセンサスになっている。

追加金融緩和を続けてきている欧州中央銀行や日銀も、FRBに続いてテーパリングや出口戦略を意識する時期が近づきつつある。

トムソン・ロイターのアイコン(Eikon)は、データベースのデータストリームにアクセスすることで、世界のマクロデータや様々なアセットクラスのデータを長期間にわたってトレースすることが可能で、高機能チャートの作成やマクロデータとアセットクラスの相関関係の分析などに役立つツールだ。

Eikonで、リーマンショック後の先進国銀行の不良債権比率の動向をみてみよう。先進国銀行の総貸出に占める不良債権の比率の推移を表したのが(図1)だ。2007年から08年のリーマンショック時に、各国の不良資産比率は急増した。震源国の米国の不良資産比率(オレンジ線)は、06年の1%から09年の5%まで上げた。その後、経済対策や量的質的緩和などを推し進めることで、13年には1.5%と08年以下の水準まで下げることに成功した。そこで米国は13年5月にテーパリングを行った。テーパリング後も不良債権比率は下がり、15年には1%台前半まで回復している。FRBは非常時の低金利を通常時のレベルに戻したい考えだ。

図1) 先進国の不良債権比率 先進国の不良債権比率

フランスの不良資産比率(青線)は06年の3%から09年には4%に小幅上昇した。欧州通貨危機等があったこともあってフランスの回復は鈍く、15年でも4%と高止まりしたままだ。しかし、16年10月初には、欧州中央銀行(ECB)が資産購入プログラムの買い入れを期間終了前に段階的に減らす可能性があると伝えられ、ユーロ圏の国債は総じて下落しはじめた。 ユーロ圏も緩和の出口を探し始めている。

日本は他の欧米諸国ほどリーマンショックは直撃ではなく、不良債権比率(水色線)は08年に2%台まで上昇、約1%の悪化に留まった。

日本の場合はデフレ環境下で低成長が続いたために、不良債権比率はなかなか低下しなかった。邦銀の不良債権比率と中小企業向けの国内融資残高をプロットしたのが(図2)だ。リーマンショックの影響で、不良債権の比率(水色線)が上昇。日本の銀行はデフォルトリスクを避けるため中小企業向けの融資(オレンジ線)を2012年にかけて絞ったものの、しばらく不良債権比率は下がらなかった。

12年末に成立した第二次安倍内閣が新成長戦略としてアベノミクスによる景気刺激策を導入、13年には日銀の異次元緩和を行ったこともあって、やっと融資残高が増えはじめ、不良債権比率は13年から下がり始めた。

図2) 日本の不良債権比率と中小企業向け融資残高 日本の不良債権比率と中小企業向け融資残高

中小企業向け国内融資残高(オレンジ線)と長期金利(赤点線)の推移に日銀短観の中小企業非製造業の国内需給判断指数(水色線)のプロットしたのが(図3)だ。

日銀の金融緩和で長期国債の利回りが低下、16年1月には日銀はマイナス金利を導入し、長期金利はマイナスに転じた。長期金利の低下とともに中小企業向け国内融資残高は増加した。その間、日銀短観の中小企業非製造業の需給判断指数は上昇することなく16年6月調査まで下げ続けた。つまり、経済対策や異次元金融緩和で融資が増えたが、中小企業の景況感は改善しなかった。

そのトレンドも8月の日銀決定会合で変わったかもしれない。日銀はマイナス金利深掘りをせず、長短金利操作のための新型オペレーションの導入を決めた。

新型オペレーションは、実質的にはテーパリングだとの見方が広がっている。実際、長期国債の金利低下トレンドは7月で底打ちし、上昇しはじめた。日銀短観の中小企業非製造業の需給判断指数も6月を底に9月は改善した。日経平均は18000円を回復した。日銀のテーパリングを意識する時期が近づいてきたのかもしれない。

図3) 中小企業(非製造業)の需給判断指数と長期金利と中小企業向け融資残高 中小企業(非製造業)の需給判断指数と長期金利と中小企業向け融資残高

日本では、新規融資残高と不良債権比率は欧米の先進国と比較して比較的安定している。老齢化社会の進展で、金融緩和と中小企業向けの融資で増えた資産は、実質的にはシニア世代に再配分されている。もしテーパリングで日本の金利が急上昇するのなら、債券の価格下落、債券型投信の価格下落等で、シニア世代にとって大きな問題となる可能性もある。異次元金融緩和の終焉は、慎重にソフトランディングを目指して欲しい。


<サブトピック>
米国物価連動国債に大量の資金流入

 トムソン・ロイター傘下の投信情報会社リッパーがまとめた米国ファンドの週間調査によると、11月3日から11月9日までの週の米国物価連動国債(Treasury Inflation Protected Securities=TIPS)のファンドへの資金フローは急増し、ネットで10.4億ドル(約1150億円)の流入となった。

11月8日の米大統領選では、大方の予想に反してトランプ氏が勝利した。トランプ氏が、インフラ増、法人減税などのリフレ政策を推し進めることを公言したことでインフレ懸念が台頭し、翌10月9日の米10年債の利回りは2.068%と前日から21ベーシス(+11.3%)高と急騰した。長期金利が2%を超えたのは今年の1月以来10ヶ月ぶりだった。

その後も長期債利回りは上昇し、23日には15年7月以来の一時2.4%をつけている。翌週の資金フローにも注目だ。
米国物価連動国債ファンドへの資金流入急増は、実際にトランプ政権の国債増発によるインフレを懸念しての資金シフトなのだろうか?今後の資金フローの流れに注目したい。

図表4) 米国物価連動国債(週間ネットフロー) 米国物価連動国債(週間ネットフロー)